2015年2月24日
空席状態が続いていた日本男子代表監督に大崎電気監督の岩本真典氏の起用を決めた日本ハンドボール協会は、23日に就任記者会見を東京・岸記念体育会館で行ないました。
会見には岩本新監督をはじめ、日本協会の市原則之副会長、川上憲太専務理事(兼強化本部長代行)の3人が参加。
市原副会長と川上専務理事からは岩本監督を選んだ経緯、岩本新監督からは引き受けるに至った心境や、日本代表に対する思い、今後の代表活動の考え方が話されました。
市原副会長
「(開催中の)日本リーグが終わったら、日本代表の活動を始めないといけません。
男子代表は(2014年1~2月の)アジア選手権で不甲斐ない戦いをし、(2014年10月の)アジア大会で(松井幸嗣・前)監督と(津川昭・前)強化部長が責任をとり今日に至っています。
我々はリオに向けて、慎重にじっくりと新しい監督を決めました」
川上専務理事
「市原副会長も触れたように、昨年のアジア選手権で9位、そして先日のアジア大会でもまた9位ということで、男子は窮地に追い込まれています。その中で、強化本部長、監督が辞任しました。
それを受けて、11月末から代表監督の人選をしてきました。
みなさんからは『まだかまだか』という話もあったり、取材合戦が激しく行なわれていました。
そして先日、ここにおります岩本真典氏の就任を決めました。
まずはリオデジャイネロ(リオ)・オリンピックのアジア予選。ここでなんとかリオへの切符を取ってもらいたいと人選しました」
市原副会長、川上専務理事は「最大のサポートを」と協会としても全力でバックアップしていく姿勢を見せていました。
岩本新監督
「日本男子代表が少し低迷している中、私がその重責を担えるかということで、少し不安もありましたが、指名していただいた以上、覚悟を持って臨みたいです。
ご承知のとおり、まだ日本リーグのプレーオフが残されており、大崎電気の監督として今シーズン最後の仕事があります。日本代表の活動はその後になると思いますが、現時点で指名を受けて、日本代表がどこに進むべきか、どういう道を選手に示すのかを少し話していきます。
一番は魅力ある日本代表にしたいと思っています。
ハンドボール関係者はもちろん、一般の方にも応援してもらえる、憧れられるようなチームジャパンを作っていきたい。その中で、TEAMの頭文字を取って、
Thinking 考える
Evolution 進化、発展
Action 行動、実行する
Mind 思考、意志
この意味でチームを作っていき、チームジャパンとして世界と戦っていきたいです。
それがゆくゆくは、いろいろなところで使われる『大和魂』につながるのでは、と思っています。
とくに『Mind』というところで、やはり日本代表というのは、世界と戦わないといけません。並大抵の精神力では、(本番で)通常のハンドボールができません。
技術や戦術、いろいろなことが大事になってくるけど、気持ちの部分が大切。気持ちだけで試合に勝てるわけではないですが、気持ちがないと試合には勝てないと思っています。
このあたりを選手たちにしっかり伝えながら、チームジャパンを築き上げていきたいです。
その中で、細かい部分はあるが、松井幸嗣前監督の『速くて早いハンドボール』を継承しながら、日本代表がなにで世界と戦っていくのかをそれぞれの局面で進むべき道をしっかりと示していきたいです。
OF、DF、速攻、バックチェック、戦う姿勢やルーズボールに飛び込む姿勢はもちろんですが、それぞれの局面で、これでやるんだと選手にしっかり示し、その局面をつなげる部分も重要になってくるので、そこもしっかりと伝えていきたいです。
自分が指導者になってから、どういう選手を育てたいというイメージがありました。
それはインテリジェンスという言葉(で表現できる選手)。知性や知能という意味で、人との違いを表現できる選手であったり、状況判断、リーダーシップ、考える力、学ぶ意識がある選手のことです。そこをめざせる、そこができる選手を(大崎電気での)指導の中で、特化してきたつもりです。
ただ、代表選手というのは、それを持っていて当たり前と思っています。
大事なのは、私生活でもハンドボールでも状況把握をしっかりすること。次に判断して、実行していく。すべてにおいてこの3つが連動できる選手、チームにしていきたいです。
ハンドボール人として28年やってきました。指導者としては6年弱。日本代表として多くの指導者の元でプレーしてきました。これらの経験を活かして、覚悟を持って大きな山にチャレンジしていきたいです」
岩本新監督のコメントのあとは質疑応答に入りました。
Q:岩本監督の任期は?
A:川上専務理事「リオのオリンピックまでです。したがって当面はリオのアジア予選まで。
その後の2019年(熊本世界女子選手権)、2020年(東京オリンピック)に向けた強化計画は描いています」
Q:岩本監督に白羽の矢を立てた決め手は?
A:川上専務理事「強化委員会の案としては、日本リーグの監督の中で、トップクラスの監督を優先的に選ぶべきというだという意見が大半でした。そういう中で、先日の全日本総合選手権を獲った岩本監督が適任だろうと思い、選びました」
Q:アジアで9位という成績についてはどのような分析か。これが等身大の力なのか、たまたまこういう状況なのか
A:岩本新監督「感じたのは、日本はアジアで9位の力ではないということ。
連続して9位という成績でしたが、若い選手を含め、日本リーグにいる選手を見ても、アジアのほかの国と比べて、9位ではないと思います。日本のハンドボール界として今後1つになって、日本代表をサポートしていく、というような力強い言葉もいただいています。本当にハンドボール界が1つになってチャレンジしていきたい」
Q:リオ予選に向けてどのようなシナリオを考えているのか。どういうプランで3位以内をめざすのか。
A:岩本新監督「正式に代表監督の話をいただいたのも2月12日とまだ日にちが経っていないので、シナリオというか…。思うことはもちろんアジアで優勝することです。3位を狙ってしまったらそこまでの戦いになってしまうので、優勝を狙っています。
ただ、カタールが世界選手権で2位、韓国にも長年勝てていない状況。
その中でどう戦っていくかはこれからしっかり考えていきたいです。あくまでも優勝、1位になることをめざしています。
余談になりますが、この1月に大崎が韓国の斗山と強化合宿、試合をしました。1週間、韓国のスタッフといて、学ぶことがありましたし、逆に韓国の監督も学ぶことが多かったと話していました。その監督が、2月に韓国代表監督になった尹京信監督(韓国)です。
夜の席で、『今はクラブの監督だけど、お互いいつか国家を背負って戦おう』と話して、こんなに早くなってしまったと思いました。その時に、日本がやることや僕自身がやることを伝えなければよかったなと少し後悔しています」
Q:ソウル以来のオリンピック出場をめざすということで、自身のオリンピックへのイメージはありますか
A:岩本新監督「私自身もオリンピックに出ることが目標でした。高校時代には夢として卒業文集に書いていました。大学、社会人を経て、その夢が目標になったのは間違いありません。
選手時代は1度も出場することなく、指導者になっても、いずれオリンピックに出たいというのは、ハンドボールに限らず日本国民全員が持っているはず。出場した時にどう思うかはわからないですが、それが目標なのは変わらないです」
Q:今後のスケジュールと選手選考は?
A:岩本新監督「スケジュールも選手選考もこれからです。実質動き出すのはプレーオフ後、4月になるでしょう。 選手選考は、ある程度の人数をピックアップしてやりたいと思っていますが、現時点では決まっていません」
Q:コーチングスタッフについては?
A:岩本新監督「構想の中にはあるけど、まだ川上専務理事とも話していません」
Q:フィジカルについて今の日本代表を見てどう思うか
A:岩本新監督「体格的に劣る部分はあると思います。フィジカルトレーニングを重要視していないわけではないですが、それよりもメンタルであったり、フィジカルを補う技術、戦術を指導していきたいです」
Q:先ほどの話でメンタルを強調されていましたが、今まで選手を送り出す立場として日本代表に足りないと感じていた部分ですか
A:岩本新監督「先ほどの質問にもあったように、なんで日本が9位なんだろうと思っていました。
そんな力ではないんじゃないかという思いの中で、映像を見ると、本来の力が出せていないと感じました。もっと個人個人できるんじゃないかと。もちろん、それが実力かもしれませんが。
では、それがなんなんだろうということで考えると、これも1月に斗山と戦った時に思ったのですが、どうしても日本人は受けてしまうというか、スタートから、笛が鳴った瞬間から戦っているのか、と思いました。実際に韓国のクラブチームと戦った時に、大崎の選手に怒鳴りました。日本に欠けているのはそういう所じゃないのかなと感じています。
もちろん、技術、戦術、ハード面と足りないところはいっぱいありますが、まずは日本代表として戦う姿勢というのが、本当にあるのかなと。それがあって戦えば、本来持っている力を出せる、と感じていました。
昔の話になりますが、1997年の熊本世界選手権で当時監督だったオレ・オルソン(スウェーデン)から僕らは嫌というほどそういうことを言われてきました。例えば、日本人の親切心はどこかに置いてこいとか、ハンドボールの試合はルールのある戦争だとか。そういうことが時代とともに薄れてきているような気がしています。
ひと言でメンタルと言えば簡単ですが、戦う心は戦うところで出していかないといけないと思っています。まだ外から見て言っているだけなので、中に入って、現場に立ってどうなるかわかりませんが、このあたりを土台としてやっていきたいです。その上に技術、戦術、体力があるんじゃないかと。そういう意味で気持ちだけでは試合に勝てないけど、気持ちがないと試合には勝てないと思っています」
Q:どういう風に選手たちに今の話を伝えていこうと思っているか
A:岩本新監督「オルソン監督のマネするつもりはないですが、アレンジして自分らしくしたいです。
歴代の代表監督の元でプレーしてきたので、日本代表はこうなんだと僕自身が教えられたこと、また指導者になって感じたことをミックスして伝えていきたいです」
Q:オリンピック予選まで半年あるという感じなのか、半年しかないと感じているか
A:岩本新監督「どちらとも感じています。短いと感じているし、やりたいハンドボールをどこまで選手たちに伝えられるか、チームとしてどこまで成長できるかわからない。ただ(一方で)、それだけの時間があると思ってしっかりと準備していきたいです。
現時点で海外遠征にどれだけいけるのか、具体的な案はできあがってはいません。そういう意味でもしっかりと先を見据えて、たとえ僕自身がリオまでとしても、日本代表はこれでいくんだという道を示せればという気持ちしかありません」
Q:選手選考は大崎の選手が中心になるのか。また海外で活躍する土井杏莉選手(シャンベリー/フランス)や銘苅淳選手(バルマズイヴァロシュ/ハンガリー)たちも入るのか
A:岩本新監督「大崎が中心になるかというと、そうではありません。やはり日本代表なので、どことどこのチームが中心でということはない。日本代表として戦える選手を選びたいです。
(海外で活躍する選手を呼ぶ)プランはあります。土井選手にしても、銘苅選手にしても実際見たことはないので、1度は合宿に参加してもらいたい考えています」
緊急事態とも言える現在の日本男子代表の状況や、ハンドボール界における岩本監督の知名度も相まって、集まった多くの記者から質問が出ていました。
また、岩本監督はプレーオフ後も大崎電気の指揮をとり、代表監督と兼任の形になるということです。
男子のリオデジャネイロ・オリンピック予選は11月にカタールで開催されます。その時、果たして日本代表はどのようなチームになっているのか。
新生・岩本ジャパンの活動は今後も弊誌やブログにてお伝えしてきます。
※発言部分のカッコ部分は編集部注
岩本真典監督プロフィール
生年月日:1970年9月28日(44才)
出身地:熊本県
球歴:熊本市商高(熊本、現・千原台高)→早大→三陽商会→大崎電気
指導歴:大崎電気(2009年~)